ナイトルーティンのつくりかた

良い睡眠をとるための、暮らしの中でできる工夫のひとつとして「ナイトルーティン」を確立することが挙げられます。特別な機器や寝具、あるいは薬等に頼るのではなく、就寝前の過ごし方を“毎晩同じ型”に整えることで、良い眠りに入りやすい自分の状態をつくっていくのです。

ナイトルーティンとは?

ナイトルーティンとは、寝る前に習慣的に実施する行動のこと。日本語では「入眠習慣」「入眠儀式」などと言うこともあります。

具体的な行動はたとえば、「体を軽くストレッチする」「本を数ページ読む」などが考えられます。重要なのは、これを毎晩の「習慣」とすることです。当たり前のように自然と実施できるようになることで、睡眠への効果が高まることが期待できるのです。

ナイトルーティンのつくり方

3つのポイント

ナイトルーティンの具体的な内容は、人によって合う・合わないがあり、「これが良い」という正解はありません。ご自身でいくつか試しながら、自分に合うものを見つけていきましょう。

その際には、次の3つをポイントにするのが良いでしょう。

①無理なく続けられる
②心身がリラックスする
③思考や不安から意識を逸らせる

最も大切なのは、「①無理なく続けられる」です。どんなにリラックス効果がある行動でも、継続するのが重荷になるようでは本末転倒だし、三日坊主で終えるのももったいないものです。まずは「楽しく続けられそうだな」と感じることを数日間、続けてみるところから始めてみましょう。

また「②心身がリラックスする」「③思考や不安から意識を逸らせる」については、日常生活を振り返ってみて、「そう言えば、これをやった時は嫌なことを忘れられるな」というような瞬間を思い出してみましょう。毎日の就寝前にも実施できるものであれば、そのままナイトルーティンとすることも一案です。

具体的な候補

ナイトルーティンに「正解」はありませんが、いくつかの候補を上げることはできます。ちょうど良いものが思い浮かばない方は、この中から自分に合いそうなものを試してみてください。

ストレッチ、筋弛緩法、ヨガ、マッサージ、瞑想、深呼吸、ペットと遊ぶ、読書、動画鑑賞、音楽鑑賞、アロマ、飲料など

意識を適度に集中できるものが良いでしょう。

身体を動かすものでは、体に一度力を入れてから脱力する筋弛緩法を取り入れた「ほげーたいそう」(S'UIMIN監修)は、お勧めのコンテンツのひとつです。

おやすみ前のリラックス「ほげーたいそう」|『Pokémon Sleep』(ポケモン公式Yotubeチャンネル)

また、身体を使うアクティビティが合う人もいれば、軽い情報の刺激があったほうが合う人もいます。

たとえば、ストレッチや深呼吸は、人によっては意識を上手に集中できる一方で、体を動かしながら頭の中では心配ごとを考え続けてしまうこともあります。もし心当たりがあるなら、読書など“適度に集中して意識を向けられるもの”を中心に試してみると良いかもしれません。

組み合わせても良い

ナイトルーティンは一つである必要はなく、複数の行動を、順番も含めてセットにしてしまうのも有効です。

たとえば「就寝1時間前に入浴→照明を落とす→軽い筋弛緩→決めた読書を10分」といった具合に、夜の後半を“同じ道筋”にする。こうすると条件づけが起こりやすく、迷いも減ります。「毎晩この流れに乗る」と捉えると、続けやすくなるでしょう。

興奮や覚醒につながる内容はNG

ナイトルーティンの邪魔をしやすいのは、覚醒作用のあるものです。たとえば、カフェインやニコチン、アルコール等の刺激物は避けましょう。

また、「嫌なことを忘れる」といっても、強い快楽や興奮で心が高ぶるような激しいコンテンツなどはかえって眠気を遠ざけてしまいます。「楽しいからOK」ではなく、自分の心身が眠りへの準備に向かうようなコンテンツを探しましょう。

なお、就寝前のスマホは睡眠に悪影響を及ぼしやすい一方で、刺激の少ない“落ち着く”コンテンツに限り、見る時間をあらかじめ決めて短時間で切り上げる使い方なら、ナイトルーティンとして役立つ場合もあります。

参考:寝る前のスマホはホントにNG? 睡眠への影響と上手な使い方
https://www.suimin.co.jp/column/smartphone

ナイトルーティンの二段階の効果

ナイトルーティンは、大きく分けて二段階の効果が期待できます。ここでは、「不安や心配ごとが多い方が、就寝前に読書で気分転換するナイトルーティンを導入した」というケースで考えてみます。

一段階目は、実施した行動による直接的な効果。

読書によって不安や心配ごとから意識が逸れることによって、入眠がスムーズになることが考えられます。また、ナイトルーティン導入前の就寝前の行動が仕事のメールチェックなどといった「不安や心配ごとを助長するもの」だった場合には、そうした行動をとらなくなることの効果も期待できるでしょう。

この「直接的な効果」は基本的には即時的であり、ナイトルーティンを実施すればすぐに得られやすいものです。

ただ、ナイトルーティンにはもう一段階、「条件づけの効果」も期待することができます。

「条件づけの効果」とは、就寝前の読書を毎晩継続して実施することによって、その時刻に本を読み始めると、条件反射的に眠気を感じはじめたりするようになること。行動習慣そのものが、脳や体への合図となるのです。

条件づけの効果は「パブロフの犬」でも知られており、入眠習慣を1~2週間程度実施するころから現れやすくなります。だからこそ、ナイトルーティンは無理なく続けられることが大切なのです。

ナイトルーティンの学術研究

「ナイトルーティン」を科学的に検証した研究は多くありません。就寝前に過ごす環境や行動には個人差が大きく、組み合わせも多様で標準化しづらいためです。ただ、就寝前の行動や思考、感情、覚醒(緊張)の状態が入眠にどう関わるかを整理したレビューはあり、ナイトルーティンを考える土台になります。

関連領域である不眠の認知行動療法(CBT-I)の知見では、寝床で睡眠と競合する行動を減らして「ベッド=睡眠」の結びつきを取り戻す方法(刺激制御)が、「眠りに向かう合図」を再学習するという点でナイトルーティンの考え方と通じます。ただし、就寝前の習慣づくりを単独で「不眠症の治療」として評価すると効果は限定的という指摘もあります。これらはいずれも、「不眠に対する治療効果」を評価したものであり、健常者がより良い睡眠をとるための工夫にそのまま一般化できるとは限りません。

ナイトルーティンには科学的に厳密なエビデンスを求めるのではなく、日常生活の中で自分に合う行動を選び、繰り返して眠りに向かう状態を整えるための実践的な枠組み、と捉えるくらいがちょうど良いのかもしれません。

ナイトルーティンの実際

最後に、これまでに見聞きしてきたナイトルーティンの実践者の声を紹介します。

お笑い動画を見る:20代男性アスリート
好きな芸人さんが決まっていて、そのチャンネルの動画を寝る前に1本見ています。芸風が決まっているので、ある意味で安心してみることができ、ちょっと気持ちを緩めるのにちょうど良いです。

動物の動画を見る:50代女性
布団に入ると「眠れないこと」が心配で、眠れなくなってしまうことに悩んでいました。スマホの動画は良くないと思っていたのですが、内容や長さによっては睡眠の助けにもなると聞き、自分が一番幸せな気持ちになれる「動物の動画」を見ることにしました。動画を見ると眠れないことへの不安が和らぎ、以前よりよく眠れるようになったと感じています。

ペットと遊ぶ:20代男性プロスポーツ選手
翌日の試合のことをいったん忘れるために、10分程度、ペットと遊ぶことに集中しています。目の前のことに集中でき、自分に合っているように感じています。

英語のリスニング教材:筆者(30代のころ男性)
横になって英語をただ聞きながら、頭の中で日本語訳を考えているととても眠くなることに気付き、就寝前に活用したことがあります。眠ってしまった後に睡眠を妨げないように、タイマーを活用していました。効果は十分でしたが、実際の試験のリスニングでも条件反射的に眠くなってしまい少し困りました。

何度も読んだ漫画やエッセイ:筆者(40代男性)
何度も読んだ漫画は、ページをめくらなくても次に何が描かれているか覚えているので、次第にページをめくるのすらめんどくさくなり、そのまま眠ってしまうことが多いです。初めて読む漫画や本は、面白くてのめり込んでしまうと逆に眠れなくなるので避けています。毎日繰り返しているうちに、布団に入って電子書籍を手に取っただけで眠る気になり、開かずに眠ってしまったこともあります。

つまらない論文を読む:柳沢正史(睡眠学者)
仕事柄、論文をたくさん読まなくてはいけないので、その中でもあまり面白くなさそうな論文を選び、布団の中にPCやタブレットを持ち込んで読んでいます。頭が退屈に感じ、やがてスムーズに眠れるような感触が出てきたところで、読むのをやめて眠るようにしています。

まとめ:自分だけの「眠りのスイッチ」を育てよう

ナイトルーティンに、決まった正解はありません。大切なのは、自分自身が心地よく、無理なく続けられること。しばらく続けていくうちに、きっと自分だけの「しっくりくる型」が見つかるはずです。そうして習慣が定着するほどに、脳と体がスムーズに入眠モードへと切り替わる「条件づけ」の効果も、ぐんぐんと高まっていくでしょう。

まずはあまり構えずに、「これなら楽しそうだし、続けられそうだな」という小さな一歩から始めてみてください。そんな小さなひと工夫が、毎晩良い眠りへ導いてくれる強力な「眠りのスイッチ」になっていくかもしれません。

参考文献

就寝前の行動・思考・覚醒と入眠の関係(概念整理/レビュー)
Meneo, D., & Baglioni, C. (2025). Winding down for sleep: How behavioral, cognitive, motivational, and emotional factors interact to influence sleep regulation and health. (Sleep Medicine Reviews).(就寝前の行動・認知・情動・覚醒状態が、眠りへの移行や睡眠調整とどう関わるかを枠組みとして整理したナラティブレビュー)

CBT-Iの有効性(メタ分析)
Trauer, J. M., Qian, M. Y., Doyle, J. S., Rajaratnam, S. M. W., & Cunnington, D. (2015). Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Insomnia: A Systematic Review and Meta-analysis. (Annals of Internal Medicine).(慢性不眠に対するCBT-Iの有効性を、複数の臨床研究を統合して検討したシステマティックレビュー/メタ分析)

「ベッド=睡眠」を再学習する(刺激制御の原典)
Bootzin, R. R. (1972). Stimulus Control Treatment for Insomnia. (Proceedings of the 80th Annual Convention, APA).(寝床・寝室と覚醒の結びつきを弱め、寝床を“眠る合図”に戻すための刺激制御の考え方を示した古典的文献)

条件づけられた覚醒/不眠の維持要因(行動モデル)
Spielman, A. J., Caruso, L. S., & Glovinsky, P. B. (1987). A Behavioral Perspective on Insomnia Treatment. (Psychiatric Clinics of North America).(不眠が慢性化する過程での維持要因や、就寝時の条件づけ・覚醒などを含む行動的観点からの整理)

不眠モデルにおける学習・環境手がかり(章)
Perlis, M., Shaw, P. J., Cano, G., & Espie, C. A. (2010). Models of Insomnia. In Principles and Practice of Sleep Medicine (5th ed.). (Elsevier).(寝床・就寝に結びつく学習や環境手がかりが不眠に関与しうることを含め、不眠の主要モデルを概観した章)

睡眠衛生教育を単独介入として見たときの限界(メタ分析)
Ruan, J. Y., Liu, Q., Chung, K. F., Ho, K. Y., & Yeung, W. F. (2025). Effects of sleep hygiene education for insomnia: A systematic review and meta-analysis. (Sleep Medicine Reviews).(睡眠衛生教育を“単独療法”として扱った研究を統合し、根拠の限界も含めて検討したレビュー/メタ分析)

文責:谷 明洋 (S'UIMIN 睡眠ウェルネスアドバイザー / 元日本科学未来館 科学コミュニケーター)
監修:柳沢 正史(S'UIMIN 取締役会長 / 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長)

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