パワーナップの極意と注意点~上手にとりたい「仮眠」の話~
午後の集中力を高める「パワーナップ(仮眠)」の極意を解説。15分という時間の目安や、最新の計測データに基づいた個人差、深い睡眠(N3)を避けるコツなどを詳述します。

忙しい現代社会において、「仮眠」がかつてないほど注目されるようになりました。
「パワーナップ」という言葉が広まり、従業員用の仮眠スペースや仮眠ブースを設ける組織も増えてきました。
S'UIMINが健康経営の一環でセミナーを実施しても、仮眠にまつわる質問を受けることが増えています。
「昼寝=サボり」というネガティブなイメージも大きく変わりつつあります。
今回は、脳をリフレッシュさせ、午後の生産性を高めるための「仮眠の極意」と、忘れてはいけない注意点を整理していきます。
なぜ、仮眠が注目されるのか?
端的に言えば、「現代がとても忙しい社会だから」ということになりそうです。
仕事や生活のタスクが多く、夜の睡眠時間の確保がままならない。そんな中で日中の眠気を抑え、午後のパフォーマスの低下を防ぐためには、確かに仮眠はとても有効な策のひとつであると言えるのです。
仮眠の極意
仮眠は上手にとらないと、「眠りすぎて、かえってだるい」「夜、眠れなくなってしまった」等の悪影響につながることもあります。
次のルールを目安にしましょう
時間は「15分程度」: 仮眠の時間が延びすぎると、目覚めが辛くなるなどの問題があります。なお、ごく短時間の仮眠でも効果が出ることもありますが、エビデンスが比較的しっかりしているのは10分前後の仮眠です。
タイミングは「12時〜15時」: これより遅い時間の仮眠は、夜の主睡眠に影響してしまう可能性があります。昼食後の眠気を感じやすいタイミングを仮眠に充てましょう。
「横にならず」を試す: 横になると深く眠ってしまいやすくなるため、椅子に座ったままでOK。ただし頭がぐらぐらしないように、机に突っ伏すか、背もたれに身を預ける姿勢が良いでしょう。
光や音を遮断する: アイマスクや耳栓(またはノイズキャンセリングイヤホン)を使って視覚と聴覚をオフにすると、眠りに入りやすくなるかもしれません。
「コーヒー・ナップ」: 仮眠直前にコーヒーを飲むと、15分後くらいからカフェインが効き始め、目覚めを助けてくれる可能性があります。
「短時間」が良い科学的な理由
長すぎる仮眠はなぜ良くないのでしょうか。そこには睡眠のメカニズムが関係しています。
眠りにつくと睡眠は次第に深くなっていき、やがて「最も深いノンレム睡眠」に到達します。この段階から一気に目を覚ますと、強い倦怠感や頭のボーッとする感覚が長時間続いてしまうのです(これを専門的に睡眠慣性といいます)。
また、昼間に長く眠り過ぎると、夜に逆に眠れなくなってしまったり、夜の睡眠の質を下げてしまうことも心配です。
厳密には「適切な長さ」にも個人差がある
ただし、ここで注意したいのが「深い睡眠に到達するまでの時間」には大きな個人差があるという点です。
株式会社S'UIMIN社の睡眠計測では、入眠から10分以内に深い睡眠に到達する人も少なからず確認されています。一方で、体質的に深い睡眠がほとんど出ないという人もいます。
また、眠ろうとしてから実際に眠るまでの「入眠潜時」が長くなれば、その分だけ深い睡眠に切り替わるタイミングも後ろにずれていきます。
寝つきも深い睡眠への到達も早い人では、「15分でも長すぎる」かもしれませんし、20分の仮眠の時間をとっても寝付くまでに18分かかれば「せっかく寝付いたところだったのに」となってしまいます。
15分程度というのはあくまで目安。自分にとって、ある程度の時間を眠れて、かつ、目覚めが辛くない「マイ・ベスト・タイム」を探ることが大切です。

S'UIMINの睡眠脳波測定による仮眠の測定事例
知っておきたい「仮眠の限界」
仮眠は強力なツールですが、万能ではありません。
間違えてはいけないのは、「短時間の仮眠は、夜の睡眠不足を補うものではない」ということです。
そもそも理想は、仮眠を必要としないほど夜にしっかり眠れること。
仮眠は、それが叶わない時の次善策に過ぎず、言い換えれば夜の睡眠が足りていないサインでもあるのです。
眠気が抑えられるからといって、仮眠に頼り過ぎずに、夜の睡眠を見直すことも忘れないようにしましょう。
仮眠にまつわるよくある誤解
「電車やバスでの居眠り」は、揺られている心地よさからか「良い睡眠がとれている」と考える方が多いようです。
ただ、実際のところ、姿勢の不安定さや騒音・振動などの影響で質の良い睡眠がとれていない可能性が高いです。
「通勤中に眠れるから夜の睡眠は短くていいや」という考えは、なるべくあらためるのが良いでしょう。
また、「目をつぶっていれば眠れなくても効果がある」という考え方にも注意が必要です。
目を閉じて静かに休むことで、新しい情報からいったん離れ、脳への負担を減らす効果は期待できます
ただ、眠気や注意力の回復についてより強いエビデンスがあるのは、実際に短時間眠れた場合です。
短時間でも構わないので、脳が睡眠状態になることが大切だと考えましょう。
また、仮眠を取ろうとしても眠れない場合、それは必ずしも悪いことではありません。
夜に十分な睡眠を取っている人は、日中になかなか眠れないのが「当然のこと」だからです。
午後の眠気や不調に困っていなければ、無理に仮眠を取ろうとする必要はありません。
特殊な事情がある場合の「長めの仮眠」
仕事の都合などで、長めの仮眠が必要になることもあるかもしれません。
「夜勤に備えて少し眠っておきたい」「不規則勤務でメインの睡眠が5時間程度しか取れないので、仮眠で補いたい」などのケースです。
その場合は、以下のような「現実的な妥協案」を検討してください。
30~50分程度の仮眠を避ける: 深いノンレム睡眠は入眠後、20~60分後くらいに現れることが多いです。15分以内の仮眠で足りないようであれば、いっそのこと80分以上くらいを眠るようにしましょう。30~50分程度の仮眠は、睡眠慣性につながる可能性が高いです。ここでも個人差がありますので、自分がスッキリ起きられる長さを試行錯誤して見つけておくことも有効です。
規則正しさを維持する: メインの睡眠時間と仮眠のタイミングを毎日固定することで、体内時計の混乱を最小限に抑え、スムーズな入眠と目覚めを促すことができるかもしれません。
まとめ
仮眠は、自分自身の体調や脳の状態をマネジメントする「積極的な短時間の休息」です。
午後の不調を感じる方は、昼下がりの10分程度で良いので、静かに目を閉じて休んでみてください。
夜の睡眠を大切にすることも、あわせて忘れずに。
参考文献・出典
仮眠が午後の認知機能や眠気に与える効果
Leong, R. L. F., Lo, J. C., & Chee, M. W. L. (2022). Systematic review and meta-analyses on the effects of afternoon napping on cognition. Sleep Medicine Reviews, 65, 101666. (午後の仮眠は、記憶・注意・処理速度などの認知機能に小〜中程度の改善効果をもたらすことを示した系統的レビュー・メタ解析)
昼食後の短い仮眠の有効性
Takahashi, M., & Arito, H. (2000). Maintenance of Alertness and Performance by a Brief Nap After Lunch Under Prior Sleep Deficit. Sleep, 23(6), 1–7. (睡眠不足の条件下で、昼食後の15分仮眠が、その後の眠気とパフォーマンスを改善した研究)
短時間で切り上げるべき理由(睡眠慣性)
Tassi, P., & Muzet, A. (2000). Sleep inertia. Sleep Medicine Reviews, 4(4), 341–353. (睡眠から急に目覚めた直後に生じる眠気や頭の働きの鈍さである「睡眠慣性」について整理した代表的レビュー)
コーヒー・ナップ
Hayashi, M., Masuda, A., & Hori, T. (2003). The alerting effects of caffeine, bright light and face washing after a short daytime nap. Clinical Neurophysiology, 114(12), 2268–2278. (短い昼寝の前にカフェインを摂取すると、昼下がりの眠気や作業成績の改善が強まることを示した研究)
「15分程度」は目安であり、最適な長さには個人差がある
Hilditch, C. J., Dorrian, J., & Banks, S. (2017). A review of short naps and sleep inertia: do naps of 30 min or less really avoid sleep inertia and slow-wave sleep? Sleep Medicine, 32, 176–190. (30分以下の短い仮眠でも、時間帯や事前の睡眠不足の程度によって睡眠慣性や深睡眠への入り方が変わりうることを整理したレビュー)
覚醒したままの目を閉じた休息の効果
Wamsley, E. J. (2022). Offline memory consolidation during waking rest. Nature Reviews Psychology. (眠れなくても、目を閉じて静かに休むような “wakeful rest” によって、新しい情報からの干渉が減り、記憶の固定が助けられる可能性を整理したレビュー)
睡眠不足の蓄積(sleep debt)
National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI). Sleep Deprivation and Deficiency – How Much Sleep Is Enough. (睡眠不足は“sleep debt(睡眠負債)”として蓄積し、仮眠は一時的な眠気や作業能率の改善には役立つものの、夜間睡眠の恩恵をすべて置き換えるものではないと説明している公的解説)
文責:谷 明洋 (S'UIMIN 睡眠ウェルネスアドバイザー / 元日本科学未来館 科学コミュニケーター)
監修:柳沢 正史(S'UIMIN 取締役会長 / 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長)

SOMNO+利用者事例 睡眠時間は確保できているはずなのになぜか満足できない。そんなときに知ってほしい自分に合った見直し方
睡眠時間はしっかり確保できているのに、熟睡感がないと感じていたBさんの事例をご紹介します。体感だけでは気づきにくい夜間の状態をデータで客観的に捉えることで、納得して次の一歩を踏み出せるようになった見直し方のプロセスを見ていきましょう。

SOMNO+利用者事例 疲れているのに眠れない。そんなとき、睡眠だけを責めなくていい理由
寝つきの悪さや朝の疲れに悩んでいたCさんの事例をご紹介します。仕事や食事、光の環境といった日々の生活習慣をデータとともに整理することで、無理に「頑張って眠ろう」としなくても、眠りやすい条件を一つずつ見つけていったプロセスを見ていきましょう。

SOMNO+利用者事例 ちゃんと眠れているはずなのに朝がつらい。そんなときに知ってほしい、睡眠の「質」以外を見直すヒント
睡眠の質が悪いから朝がつらいのだと思い込んでいたDさんの事例をご紹介します。データを通して睡眠のバランスを客観的に確認することで、質よりも「量とリズム」という新たな見直しの糸口を見つけるまでのプロセスを見ていきましょう。
睡眠について、さらに詳しく知りたい方へ
S’UIMINでは、医療・健診、健康経営、商品・サービス開発、研究支援など、
さまざまな立場に応じたサービスや取り組みをご用意しています。
S’UIMINの事業一覧を見る
keyboard_arrow_right



